【New】HYOGO VISION 2050 言葉の先に、兵庫の未来が見えてきた。~田中 誠貴さん~

投稿日2026.3.2

Interview

go to Future

学んだことの向こうに

膨大な歴史がある

自分の技が技術の最先端

ひょうごビジョン:自立した経済が息づく社会

包丁鍛冶職人

田中 誠貴さん

明治末期から続く田中一之刃物製作所の4代目当主。オリジナルブランド「誠貴作(しげきさく)」を中心に、手作りにこだわる包丁は国内外で多くのユーザーを獲得しています。

不意に感じた、光る背中を追う覚悟

全国伝統的工芸品「播州三木打刃物」で知られる三木市。日本最古の鍛冶のまちとされる場所で唯一、〝本鍛造〞(一丁ごと手で叩き、鍛え上げて作る製法)の包丁作りをしているのが田中一之刃物製作所です。かつては鎌鍛冶として草刈り鎌の製造をしていましたが、安価な鎌が海外から入ってくるようになると、時代のニーズに合わせて包丁の製作を並行するように。4代目となる現当主の田中誠貴さんは高校卒業後、刃物の名産地・福井県武生の伝統工芸士鍛冶職人の元で包丁作りの修業をスタートしました。「当時は家業を継ぐ気などまったくありません。散髪屋を継ぐために厳しい修業をしていた先輩に説得されたりして、福井へ行くことを決めました。一人ぼっちですし、言葉はわからないし、いつでも辞めてやると思っていましたね( 笑)」。

父方の家業だけでなく、母方のルーツも金物一色。「ある意味、サラブレッドですよね(笑)。今となっては、こうした縁や境遇も一つの才能なのかなと思っています」。

   

   

厳しい修業の日々の中、迷いながらも修業を続けていた誠貴さんは、自身の考えが変わる光景に出合います。「ある日、工場の窓から落ちる光の下で仕事をしているおっちゃんの背中が、めっちゃかっこよく見えた瞬間があったんですよ。後光が差したように。これはかっこいいなと」。先輩の生き様、職を極めるということに憧れを感じ、やりがいを見つけた誠貴さんは職人の道へと邁進しました。

言葉の壁に直面しながらも、親方の言葉の真意を常に考え抜いてきた田中さん。「言われたことだけをこなすのではなく、自分の頭で考え抜く。その積み重ねが何より大切だと思っています」。                                 

 

三木市に戻ってしばらくは、鎌の製造をしている工場の傍らでひとり包丁を打っていたという誠貴さん。4代目として製作所を継いでから、包丁作りに完全シフトすることを決意しました。「当初はいかに親方に近づくか、ただただ真面目に包丁を作っていたと思います。三木市の金物商社の声がけから海外で包丁を販売することになったのですが、そこで高い評価を得ることができました。時期や運が良かったこともありますが、人の縁ですよね。一生懸命やっていれば勝手にそういうものが付いてくるんやなと思いました」。本鍛造による本物の切れ味とデザイン性を追求した「誠貴作」シリーズは、今や世界最高ランクとも評されるブランドに。また、日本の包丁が良いというわけではなく、〝誰々が作った包丁だから良い〞と評価してもらえる世界にふれた誠貴さんは、職人としての自信を得たそうです。

千数百年の技を、未来へ繋ぐ

田中一之刃物製作所では次世代の包丁職人も育っています。「僕が辞めたら誠貴作はなくなります。それはそれで構わないです。ただ、僕は親方に技を教えてもらいました。その親方も父親なり師匠に教えてもらって、そういったことを間違いなく千数百年ずっと繰り返してきた歴史の上で今、僕がやっているわけです。だから先輩たちのためにも自分で止めるわけにはいかない。僕がしてきたことも次の世代に伝えなければいけないと思っています」。AIやテクノロジーで得られる知識や理屈と異なり、経験と実践の上でしか得られない技は繋いでいかないとなくなってしまうと誠貴さんは話します。

製作中は「いまだにどうすれば上手くいくかずっと考えていますね。やり続けても一生答えは出ないんだと思います」と語る誠貴さん。その言葉の端々には、最高の一丁を追い求める飽くなき情熱が宿っています。

 

刃物の産地である三木市を包丁から盛り上げていきたいという思いもあり、他業種とのコラボレーションで、ロリータファッションやロボットアニメの武器をモチーフにした刃物の製作にも携わりました。「作り手にとって、新しいものづくりをしようという思いとか、心構えが重要だと思います。誰しもが立ち止まってくれるようなインパクトのある製品を作ることで、業界が注目されたり、盛り上がったりすればいいですね」。クラウドファンディングなども精力的に利用し、次々と新しい製品を提案し続ける上で大切にしていることは、どれもすべて本物の手作りであること。「量産品にしたらおもしろくない。本当に納得して製品を購入してもらうこと。同じ熱量で取り組め得る人の仕事が楽しいですし、ただ高いから良い包丁というわけではなく、使った人にしかわからない本物の切れ味を届けたいですね。持ったときに本気になってもらえるようなものを」。

工程が多く手間のかかる手打ちに一貫してこだわり続ける。「すごく面倒ですが、それを辞めたら量産品と同じ。手に取る人が納得する“ほんまもん”の手作りを、これからも貫き通したい」。

 

最近では〝技術の保存〞というテーマで、今では作り手がいなくなったという日本カミソリの製作にも着手しています。昔とは違う考え方・技術を取り入れた、新たな日本カミソリです。「伝統を守りつつ、ずっと新しいことをし続けていきたい。そして、いつか若い人に追い抜いて欲しいんですよ。そしたら僕も引退できますね」。

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