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Interview
go to Future
無駄な命などない
今あるものを大切にすれば
次の命へと生まれ変わる
ひょうごビジョン:生命の持続を先導する社会
無鹿リゾート オーナーシェフ/株式会社葉山 代表取締役/NPO法人Imagine丹波 代表
鴻谷 佳彦さん
丹波市出身。仕出し料理店の4代目を継いだ後、2010年に鹿肉料理専門店をオープン。8年後、現在の場所へ移転し、宿泊施設も増設。鹿肉を用いた食育や地産地消の6次産業化に加え、起業家・経営者としてキャリア教育にも取り組む。
出会いが使命に。〝命の循環〞に挑む
丹波市の山すそで、古民家を改装したレストラン兼宿泊施設を経営する鴻谷さん。メインに掲げるのは鹿肉料理です。鹿肉のおいしさと可能性に感動し、20年近くにわたり、世界を広げてきました。
高校卒業後、西宮の料亭で板前修業をしてUターン。仕出し料理店の4代目として家業を継ぎました。その後、市所有の宿泊施設の運営もするように。鹿肉と出会ったのはその頃です。宿泊施設の近くにあった兵庫県森林動物研究センターのスタッフが勧めてくれました。軟らかく、あっさりとしつつも奥行きのある旨みに驚いたという鴻谷さん。当時、野生生物による農作物の被害が深刻化していて、丹波市では有害鳥獣の鹿はほぼ土中に埋設して廃棄されていました。「無駄に捨てられる命を、美味しくいただけたら」。そんな思いから、鹿肉料理人としての道がはじまりました。
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味だけでなく見た目にもこだわった鴻谷さんの鹿肉料理は、全国から多くの人を惹きつけています。
一年間、毎日鹿を調理し、食べ続けたといいます。家庭料理として広めたいと、作ったレシピは1000種類超。経営するお店のメニューにも取り入れました。まだ鹿肉料理は珍しく、メディアに取り上げられ、2010年には鹿肉料理専門店「無鹿」をオープン。専門店は日本初のことで、遠方からも多くの来店があり、自治体や学校などから鹿肉料理教室の講師としても呼ばれるようになりました。
未来は、誰かが〝続けた先〞にある
地元の小学校では、鹿肉を給食のメニューに取り入れることにもなり、農林水産省の「地産地消の仕事人」に選定。さらに勉強し、「食の6次産業化プロデューサー」の検定試験も受けました。「地産地消は大切なことですが、1次産業に携わる人が加工(2次産業)も行い、付加価値を付けて販売(3次産業)まで担う6次産業化が、地域の活性化につながると考えるようになりました」。
高校で起業家精神を教える講師としての活動も始まりました。若者の教育・キャリア支援をするNPO法人を設立。「授業で商品開発を手掛けたり、地域の企業を見学したり。経営者としてのネットワークも活かし、子どもたちの未来を広げるお手伝いをしています」。背景には、自身の進路決定時、選択肢が少なかったことへの後悔があるといいます。
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「子どもたちは知らないけど、魅力ある企業が丹波にはたくさんあるんです」。自身の経験を活かし、次世代に選択肢を持ってもらう活動を続けています。
順調に見えますが、鹿肉料理の地元からの評判は、当初あまり良くありませんでした。「鹿肉はご近所さんからもらうものであり、『硬い・生臭い』など、一般的にジビエに持たれがちな悪いイメージも」。研究を進めて分かったのは、個体差が大きく、それに応じた調理法が必要だということ。年齢、性別、食べたものや気候などの違いによって、体内の水分量や筋肉の状態が「一頭一頭まったく違う」のだそうです。
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「例えば雨が少ないと、鹿の飲む水の量も減り、肉質も変わります。誰もが自然の中で生きていることが、自分の料理で伝えられれば」。そう語りながら、丁寧に鹿肉を調理する鴻谷さん。
オープン当初、東京の有名な料理店から「鹿肉を卸してほしい」という声がかかったことも。しかし、野生の生き物である鹿は流通量が限られ、入荷できる時期もまちまち。人間側の都合に合わせることはできませんでした。「増えたといっても、日本中の全世帯が200gずつ食べるだけで絶滅するほどの量。『鹿肉は貴重なもの』という認識に転換し、特別な時に食べる特別な料理にするべく、レシピも厳選。同じメニューを出し続け、素材の個体差に気づき、大切に味わってほしいと考えています」。
店を彩るのは、100年の時を経たアンティーク家具や真空管のアンプ。愛車は40年前の四駆。いずれも自身で修理しながら大切に使っています。
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約100年前のアメリカ製レジスター。実際に動くようになるまで鴻谷さんが修理を行いました。「古いもの、地域の方の農機具などを修理することもライフワークの一つです」。
「古いものが持つ良さを引き出したい」。その眼差しは鹿肉に向けるものと同じです。今あるものを慈しみ、捨てられるはずだったものに新たな光を当てて、次へと繋いでいく。「だから、ただ美味しいだけの料理を出したいとは考えていません」。命や生産者の思いを大切に、命の循環を感じてほしいと話します。