- 古民家宿glaminka代表・クリエイティブディレクター
- 大野篤史さん
- 兵庫県 佐用町・神河町
Interview
go to Future
#03 Ono Atsushi
佐用町と神河町で古民家宿「glaminka」を運営されている大野さんに話をお聞きしました。
(2021年3月19日(金))
キーワードは愛着、ストーリー、循環
― 大切にしている心がまえはありますか。
移住のキーワードは3つ、愛着、ストーリー、循環です。地元住民も、訪れる都市住民もその土地に愛着を持つこと。その土地がストーリーを持つこと。交流が循環することが大事だと考えています。たくさんの人にこの土地に愛着を持ってもらうことが目標。笑顔が生まれる場所にしたいですね
交流の循環を生む
― 交流の循環はどのようにして生まれるのですか。
グラミンカの三本柱は、ゲストハウスのような温もり、ホテルのようなサービス、地域の交流拠点です。立ち上げは2018年。お客さんの評価としては、住民やスタッフとの交流への満足度が高いです。
最初の神河町は、住民が差し入れをしてくださるなど温かい地域で、お客さんと地元の人の交流が自然に始まりました。住民がお客さんを見つけては、話をしてくれるのです。お客さんが来ることで、地元の人が元気になっていると感じます。都会の人は普段は感じることのできない地域の温かみに触れることができ、自然と笑顔が生まれています。このようにして、交流の循環が生まれました。
神河町と違って佐用町は廃村なので放っておいても交流は始まりません。僕らが、その機会と場所を作らないと交流は生まれない。グラミンカの強みはデザインやコンセプトで都会から人を呼べること。人を集めるという点では世代を問わずに支持してもらっていて、3世代で来られることもあります。親はグランピング、子どもはインスタ映えするので楽しい、おじいちゃんたちは昔こんなところに住んでいたと懐かしむなど、それぞれの世代にとって魅力があります。廃村の交流は企画の面白さや、地域のニーズの把握が大事です。佐用町の方々にもすごく興味を持って頂き、よく来てくれています。
この地域に愛着を持ってほしい
― 地域に根付くために、心掛けていることはありますか。
笑顔が生まれる場所づくりをコンセプトに始めましたが、中長期的な目標は、この地域に愛着を持ってもらうことです。都会の人にも、地域の人にも愛着を持ってほしい。そうすることで、グラミンカも地域に根付いていけると思います。
交流施設を完成させる過程も大事だと考え、人が集まる場所だからこそ、人が集まる方法で作り上げていきました。プロジェクトに賛同し、全国から集まってくれた大工や、多くのインターン生に手伝ってもらいました。集まった人数は30名を超えました。廃村に住み込みながらの集落再生生活。毎日のハードワークにも関わらず、最後完成したときに大学生が涙を流してスピーチする。佐用町を知らなかった彼らが、そこまでこの町を身近に感じるようになりました。こういう愛着を持つことが、将来の移住のきっかけになるのではないでしょうか。グラミンカが地方でその魅力を伝える架け橋になる。グラミンカがあるから移住に希望が持てるというふうにしていきたい。グラミンカのファンとして来てくれている人が、佐用のファンにもなってくれればいいなと願っています。
それぞれの棟が個性的
― 各棟のデザインやコンセプトが違うのはなぜですか。
ここでは5棟改修しましたが、神戸のTEAMクラプトンに手伝ってもらいました。規模が大きかったため、つながりのある全国の大工に声をかけてくれて、1棟ずつ別々のチームが担当することになりました。最初に、何を大切にして一棟目である神河を作ってきたかを伝えた上で、それぞれのチームに、自身の得意分野を活かし、アイデアを重ねてもらいました。「波床の家」「土壁の家」「まゆの家」「門型フレームの家」どれもが個性的で魅力的に仕上がっています。
この景色を都会の人に見せたい
— 神河町や佐用町を選んだきっかけは。
出身は神戸で、スノボが好きで一時期北海道にいました。神河も佐用も、選んだ理由は偶然で、この景色を都会の人に見せたいと思ったのがきっかけです。この佐用の集落は20年以上廃村でしたが、高台から集落を見たとき、子どもたちが川遊びして、住民が交流している姿が浮かんできて、やろうと決めました。
田舎には2種類あります。新しい風が吹いている田舎と閉鎖的な田舎。判断基準は感覚的なものですが、移住者へのインタビューが一つの指標になると思っています。移住者を応援している市町は気持ちのよい風が動いています。神河も佐用もそこがよかった。
双方にメリットのある交流を
—地域に入るときに意識していることはありますか。
新しいことを地域で行うときは、新しくきた人がメリットを受けるだけではダメです。元からいる人のメリットもないといけないと思っています。移住者や都会の人それぞれが楽しみながら自然と社会的な課題を解決するようなプロジェクトにしないといけません。
ここの古民家は全て、一軒一軒の持ち主さんと会って想いを伝え、買い取りを経て譲り受けました。遠いところだと静岡まで話をしに行きました。役場が調整に加わってくれたことで信頼が得られたのが大きかったです。このプロジェクト自体、役場との連携が不可欠で、とても感謝しています。県にも古民家改修の助成でお世話になりました。役場の担当者が一緒に県庁に説明に行ってくれましたし、最初にこの場所を紹介してくれたのも元県職員の方でした。
サービスを思い切って特化する
— 起業の際に、何かアドバイスはありますか。
古民家改修の宿泊施設は各所にあって増えているので、思い切って特化する方がいい。ここに行ったらこのサービスというコンセプトを大切にすべきです。例えば産地を生かして「椎茸」に特化とか、「たき火」に特化とか。「林業」に特化とかもいいと思います。もしくは、掛け算もよいと思います。僕らは、「古民家」と「グランピング」のかけ算で、他との差別化を図っています。
教育のクオリティを高めるために
— 元教師として、今どんなことを考えますか。
元々小学校で教員をしていました。目まぐるしい社会変化の中で、今もなお教師は多忙を極めています。教育の現場は社会情勢の変化に鈍く、変わるとしたらいつも最後というのも特徴の一つです。また、教師は、学習指導に生活指導と、総合的な人間力が求められます。
職場を離れると見えるものもあります。県の将来構想試案にもあるように、この先数十年でITやAIの分野は、驚くスピードで進化することが予想されます。そこで、学習指導についてはVRなどを駆使して、オンライン授業で行うようにします。極端に言えば、県でもっとも授業がわかりやすい先生を選んで、その授業をどこでも受けられるようにする。例えば、東進ハイスクールの林先生は、オンラインだけど全国の生徒が受けたい授業。あれと同じです。事実としてオンラインでも魅力的な授業はできます。
そうすることで、どこに住んでも同じ高いクオリティの教育を受けることができます。地方や山間部への移住のハードルも下がりますし、教師は、オンライン授業への支援と、生活指導に特化することができます。現場の教師は、一人ひとりの生徒の話に耳を傾ける時間を多く取ることができるようになり、子ども同士のけんかへの対応や、親から虐待を受けている子のケアとか、オンラインでできない部分を担う。
さらにオンライン授業が発達すれば、子どもも学びたいことを全国の各分野、例えば、農業、芸術、ものづくり、異文化などのスペシャリストから学ぶこともできます。
もう一つ。小学校6年間・中学校3年間・高校3年間の6・3・3制も見直す時期が来ているのではないでしょうか。その理由の一つとして、子どもの体と心の成長スピードが昔に比べて早くなってきているというのがあります。極端かもしれませんが、今の小学6年生は、昔の中学2年生くらい成長しているかもしれません。そういう点でいうと、小学6年生は、中学校で学ぶ方が、適しているように感じるのです。4・4・4制とか、もっと柔軟な形とか、今の子どもの成熟に見合った制度の検討を進めるべきだと思っています。
大事なのは心に響くストーリー
— ストーリーを大切にされていますね。
にんじんが嫌いだった男の子が、車に乗って辿り着いた農園で野菜を育てて、にんじんを食べられるようになるという自動車メーカーのCMがありますが、あのCMでは、車を直接PRするのではなく、車があることでできるストーリーをPRしています。モノからコトへの消費転換。何事においても人の心を動かすのは、ストーリーだと思っています。
サービス面において、我々も食材提供する時には、「この黒毛和牛はこういう人がこういう想いで育てて…」とモノに合わせてストーリーを届けるようにしています。
移住でも同じことが言えるのではないでしょうか。その土地にはこういうストーリーがある、ということが住む場所を選ぶときの決め手になる時代が来ると思います。
ビジョンや制度にもストーリーが必要だと思います。視覚だけでなく、五感を通して心に響くようなものが求められているのではないでしょうか。
地方分散の流れをつかむ
— 地方分散について、どう思われますか。
様々な分野の発達によって地方への移住のハードルは下がり、都市一極集中から地方分散への流れは、加速していくのではないでしょうか。コロナ禍で生まれたリモートワークの広がりや、アウトドアの人気上昇などもその理由の一つです。
地方分散型に流れが来ているとは言え、まだまだ制度を整える必要があるのも事実です。自治体がどのように舵を切るのかが大切なタイミングに来ていると思います。多様に広がった価値観を把握し、官民が連携してこの先の兵庫県を創造していく必要があると思います。地方分散を推し進めるのであれば、今がその大きなチャンスではないでしょうか。
空き家が増えていますが、地方分散で空き家の活用も促進されるでしょう。実際、ここ佐用町でも空き家の問い合わせが増えているようです。しかし、進む人口減少や空き家の数を考えても、すべてを再利用するのは不可能です。都会から人が流れてくる前に、政府が、ある程度人の流れをコントロールする必要があるかもしれません。極端な話ですが、例えば各集落に住人が1人だった場合、ライフラインなどの維持一つをとっても莫大な費用がかかることになります。であれば、ある程度一つの集落に固まって住んだ方が豊かに暮らせるはずです。人口減少に合わせて、明るい未来に向けて地域の特色を生かしたまちづくりの検討を進めていくべきだと思います。
グラミンカは、宿泊されたお客さんに限らず地域内外の多くの人に、地域の魅力を発信できるよう、地域交流拠点としても活動していければよいなと思っています。
仕組みづくりがおもしろい
— 今後の展開について、何か考えていることはありますか。
価値観が多様化し、旅行の目的も多様化してきています。これまでは、大型テーマパークや観光名所探訪が一般的でしたが、よりローカルなスポットや店主の想いが伝わる小さなお店などが脚光を浴びています。SNSの発達が背景にありますが、地域を離れると魅力的なローカルスポットを探すのは困難です。そこで、初めて訪れた土地であっても、その土地ならではローカルな魅力が見つけられる仕組みができたらよいなと思っています。
大野さんの考える “2050”
DIYの文化を広げたい
集落の再生を通して、「大勢の人が集まること」「年齢関係なく一緒に楽しめること」「地域を巻き込めること」「消費的な遊びから生産的な遊びへ転換すること」「地域に愛着が生まれること」といったDIYの魅力に気付きました。DIYの発想は兵庫県がめざす「一人ひとりが主体となって、地域を作っていく」というビジョンと重なっていると思います。
DIYによる地域づくりを官民が連携して計画し、実行することで、多くの人がDIYに踏み出すきっかけになると確信しています。これまでのノウハウを活かし、そのモデルになる事業を行いたい。古民家や集落に固執するつもりはないし、宿泊業のみにこだわるつもりもありません。何かを成し遂げた後、そこに広がる景色に何を感じ、何を考えるか。それだけが唯一の羅針盤です。自分の感性を信じて全力で行動していこうと思います。