HYOGO VISION 2050 言葉の先に、兵庫の未来が見えてきた。~岡垣 裕美さん~

投稿日2026.3.2

Interview

go to Future

正解のない「子育て」。

楽しみ方を教え、地域で見守り、

幸せな親子を増やす。

ひょうごビジョン:誰も取り残されない社会

助産師/一般社団法人 ファミリーケアセンター MOM 代表理事

岡垣 裕美さん

愛知県出身、家族の転勤で24年前に淡路島へ。助産師・看護師・保育士資格を有し、病院・市役所勤務を経て産後ケア特化の助産院を開院。中学・高校で思春期教育の特別授業を担当。看護学校でも教える。

気づきが、動き出す力になる

中学生の頃、産まれてきた命に最初に触れられることに感動し、助産師を目指すようになった岡垣さん。最初に働いた大阪の総合病院では年間約900件のお産に立ち会い、毎回泣くほど感動していたといいます。しかし、それ以上に気になったのは、育児に不安を抱えるお母さんの姿。病院では話す時間もなく、地域に帰ってからの生活こそ助けたいと思うようになったそうです。

その後、淡路島に移住した岡垣さんは、洲本市役所で新生児訪問事業に携わります。願っていた産後ママのサポートはやりがいがあり、15年ほど続けていたところ、産後ケアの必要性を国が謳うようになり、島内でも受け皿の整備が急がれました。上司や仲間の薦めもあり、2 0 2 3 年に立ち上げたのが助産院MOMです。「市役所にいると、夜間や休日など本当に助けを求められているタイミングで対応できないことも多く、もどかしさを感じていました。時間や回数の制限がない場所で、納得いくまでサポートしたいと独立を決意しました」。分娩を扱わず、産後ケア・子育て支援に特化した助産院は、淡路島では初の試みでした。

「育児を教わる機会が少ない今、地域で母子を見守り、知恵を繋ぐのが私の役目」。そう微笑む岡垣さんは、島の専門家たちと手を取り合い、親子が独りきりにならないよう優しく寄り添っています。

   

   

ひとりにしない、それが支えるということ

開院後、印象的だったのは、泣きながら相談に来てくれたお母さん。結婚で来島し、知り合いもおらず、初めての育児で途方に暮れていたそうです。「離乳食作りに悩んでいたので、市販のフードで大丈夫だよと伝えて。お子さんが3歳になった今でも連絡をくれます」。舌の動きや咀嚼能力など、身体の発達具合を細やかにチェックしながら、お母さんとの対話を進めます。「今は情報が手に入りやすく、『この月齢ならこれができるはず』と判断しがち。でも、性格や発達は一人ひとり違うもの。きょうだいでさえ違うので、その子自身を見てあげることが何より大切です」。

対応するのは岡垣さんを中心とした専門家たち。多職種連携を掲げ、看護師・助産師・作業療法士といった専門家と契約し、必要に応じて市役所にもつなぐほか、医師や保健師、管理栄養士、社会福祉士とも連携します。「指導する立場だからこそ、科学的な最新の情報に常に触れられるよう勉強している」と話す岡垣さん。来院するお母さん方の会話にも学びが多いといいます。

島外出身だからこそ、地域の良さも課題も自分事として見えるという岡垣さん。「この場所を好きになってほしい」というまっすぐな想いは、時として島の人以上に淡路島に詳しいと言われるほどの深い愛に溢れています。                                   

 

活動の場は外にも。中学・高校で行う思春期教育の特別授業「いのちのおはなし」は、15年ほど続けてきました。「できるだけ感情を込めず、事実だけを伝えていても、自然と親への感謝や自己肯定感が芽生えるようです。授業を受けた子が助産師になるという嬉しい奇跡も」。褒め方や叱り方、成長に気付く力など、保護者に「子どもの見守り方」を教える講座も始めました。目の前の子育てを楽しみ、思春期以降の親子の関係性を良くすることも意識しています。「重要なのは、親が変われば子も変わるということ。子どもを変えようとするのではなく、親が笑顔になるのが第一です」。子育て中のママ・パパから、将来親になる可能性を秘めた子どもたちまで。人の一生に関わる助産師の仕事は、次の世代へと継承されていきます。

「親が変われば、子も変わる」。そう信じて、親子関係を築くための教室を積極的に開催する岡垣さん。まずは親が笑顔になれるように――。そんな想いとともに、子育ての楽しさを丁寧に伝え続けています。

  

 

貴重なオフの日は、愛犬と海辺を散歩したり、温泉に行ったり、淡路島らしい時間を満喫。島育ちの2 人の子どもたちは、海に関わる仕事に就きました。「乳児の頃から仕事に復帰しましたが、成人した今も仲良し。関わる長さではなく、質が大切だとお母さん方にも伝えています」。普段から気兼ねせず頼ってもらえるように、一時預かりの理由は聞かないのがポリシー。土日や年末年始の預かり、夜中のメッセージ対応など、病院や市役所ではできなかったことを、今はできている実感があるといいます。「困っていても一人で頑張ってしまう姿を知っているから、ランチ会に誘ったり、ご近所さんを紹介したり、人付き合いも広がるようにお節介しています(笑)」。自身を含め、淡路島は移住者の多いエリア。せっかく来てくれたのだから淡路島を好きになってほしいと、周辺のお店や企業の情報もどんどん紹介。地域で子育てを支えていきたいと目を輝かせます。

「元気に育つ子どもたちと、お母さんの笑顔が何よりの喜びです」。そう語る岡垣さんは、単に健康を守るだけでなく、健やかに育ち合える環境を整え、人と人とを繋ぐ「地域助産師」としての役目を大切に紡いでいます。

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